和食器の「網手」文様──網目に込められた願いと美意識

花網7寸皿・土山敬司 和食器
花網7寸皿・土山敬司

日本の伝統文様の中には、日常生活の道具や自然の形をモチーフにしたものが多くあります。その一つが「網手(あみで)」文様。魚を捕る網や竹かごの編み目を思わせるこの文様は、素朴でありながら奥深い美しさと意味を湛え、和食器にも広く用いられてきました。

染付網目中鉢・阪東晃司《小鉢・13.7cm》
染付網目中鉢・阪東晃司《小鉢・13.7cm》

染付網目中鉢・阪東晃司《小鉢・13.7cm》

おおよそ直径13.7 × 高さ5.0cm

  

   

   

■ 網手文様とは?

「網手」とは、文字通り“網の手”=網の編み目の形状を文様化したものです。細かく規則正しく並んだ格子状や斜め格子の線で構成され、青海波や麻の葉のような規則的な連続模様と似た趣があります。

形としては、魚網のような六角形の連続や、竹籠風の交差格子を思わせる模様が多く、染付の技法で皿や鉢の見込みや縁に施されることがよく見られます。

■ 文様に込められた意味

網手文様には、主に以下のような意味が込められています。

豊漁・豊穣の願い
 網=漁具としての象徴であり、「たくさんの魚がかかるように」「恵みを取り逃さぬように」といった意味合いを持ちます。食卓に上がる食材への感謝と、これからの実りを願う気持ちが表れています。

魔除け・厄除け
 網目の細かさは「悪しきものを通さない」「運を逃さない」という象徴でもあります。格子状の文様は古来より結界的な力を持つとされ、厄除けとしても好まれました。

縁起の良さ
 網は多くのものを「すくう」「つなぐ」ことから、人との縁や福を呼び込む縁起物ともされました。結婚祝いや節句の贈り物にも適した文様です。

■ 歴史と背景

網手文様は、江戸時代中期以降、特に染付(そめつけ)の磁器に多く登場します。伊万里焼や美濃焼、瀬戸焼などで見られ、器の一部に装飾的に施されたり、器全体に細密に描かれたりと、多様な表現がなされてきました。

藍色の線で繊細に描かれる網手文様は、職人の筆致とリズムが試される文様の一つ。素朴な印象の中にも、手仕事の緊張感と規律が漂います。

■ 網手文様の器の魅力

現代の和食器においても、網手文様は根強い人気を持っています。その理由は以下の点にあります:

料理を引き立てる下地
 網目模様は、料理を引き立てる背景となり、彩りを邪魔せず、器全体に落ち着いた印象を与えます。

和洋問わない相性の良さ
 幾何学的でリズミカルな模様は、現代の洋食や中華にもマッチし、普段使いからおもてなしまで幅広く使えます。

品格と親しみの共存
 職人の手仕事が映える精緻な模様でありながら、どこか懐かしさや温かみを感じさせるのも、網手文様の魅力です。

■ 物語──「網の文様と娘の願い」

ある港町の窯元に伝わる話があります。漁師の娘が、遠海に出た父の無事を願って、毎日網を繕いながら器に同じ模様を描いたといいます。それは網の文様──「この網が、父を守ってくれますように」と。

その器はやがて人々の間で「無事の網」と呼ばれ、漁師たちの家庭で大切に使われるようになったとか。網手文様には、そうした家族を思う祈りも込められていたのかもしれません。

■ まとめ

網手文様は、漁や暮らしに根ざした日本人の智恵と願いが込められた伝統文様です。繊細でありながら力強いその形は、現代の食卓にも静かに息づき、器を通して人と人とのつながりや、自然の恵みへの感謝を思い出させてくれます。

日常にひとしずくの物語を添える和食器。その一枚に、網手の美しさと意味を感じてみてはいかがでしょうか。

花網7寸皿・土山敬司《中皿・21.7cm》
花網7寸皿・土山敬司《中皿・21.7cm》

花網7寸皿・土山敬司《中皿・21.7cm》

おおよそ直径21.7 × 高さ4.4cm

   

   

   

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