四条河原町の喧騒を背に、細い路地を北に少し進むと、木の格子戸に暖簾を掲げた蕎麦屋が現れる。店先には「手打ちそば」と墨書きされた看板があり、歴史の重みを感じさせる店構えだ。
週末の昼下がり、四人の家族がその蕎麦屋の戸をくぐる。祖母、父、母、そして小学四年生ほどの娘。木のぬくもり漂う小さな店内に通され、窓際の四人掛けの席に腰を下ろす。
「私は親子丼と小うどんのセットにしようかね。」祖母が言うと、娘もそれに続いて「私も親子丼がいい!」と声を弾ませる。父と母は迷った末、それぞれ天ぷらうどんとざる蕎麦を頼んだ。
やがて、店主自ら手にしたお盆に乗せられて、湯気の立つ料理が一つずつ運ばれてくる。その中でも特に目を引くのは、親子丼が盛られた一つの器だった。




その丼は、どこか格調高くも温かみを感じさせる佇まいだ。外側には藍色で描かれた縁起物の吉祥文様が繊細な筆致で描き込まれている。その文様の間には、鮮やかな黄色のアクセントが施され、全体の雰囲気を引き締めている。家族の目をさらに惹きつけたのは、丼の内側だ。ふんわりと盛られた親子丼の下には、こちらも縁起物の七福神の姿が描かれている。卵が引き立てるように、笑みを浮かべた布袋尊や大黒天がちらりと覗く。
「おばあちゃん、これすごく綺麗!七福神がいるよ!」と娘が興奮気味に言うと、祖母が微笑む。「そうだね。この丼みたいに、福がいっぱいくるといいねぇ。」
店主がやや誇らしげに語る。「この器は、京都の熟練の職人が一つひとつ手描きで仕上げているんです。内側に絵を描くのは特に難しいんですが、この曲線の中にあの細かい七福神を描けるのは、本当に熟練の技なんですよ。」
さらに、丼を持ち上げた祖母が感嘆する。「思ったより軽いねぇ。でも、しっかりしてる感じがするよ。」
「そうなんです。」店主が頷く。「独自の技法で、軽さと丈夫さを両立させているんです。フチを厚くすることで欠けにくく、胴を削って軽く仕上げています。その溝のおかげで持ちやすさも抜群なんですよ。」
家族が箸を進めるたび、丼の内側から七福神が少しずつ顔を覗かせる。その姿に笑顔を浮かべる娘、父母、祖母。器はただの入れ物ではなく、その食事の時間をより特別なものにしていた。
丼が空になり、娘が言う。「この丼、家にもあったらいいのに。」
祖母が目を細める。「そうだね、縁起物だし、贈り物にもぴったりだね。」
静かに流れる時間の中、丼の持つ魅力が食卓を温め、家族の楽しく記憶に刻まれる一日となった。




京焼・清水焼 村田幸之介(六齋窯) 七福神黄地祥瑞丼


京焼・清水焼 村田幸之介(六齋窯) 七福神黄地祥瑞丼
寸法: 直径18.5cm×高さ8cm

