● 古今東西で愛され続ける吉祥のモチーフ
和食器に描かれる文様の中でも、「葡萄文様」はとりわけ豊かさと生命力を感じさせるものとして親しまれてきました。つるを伸ばし、房をたわわに実らせる姿は、目にも楽しく、また縁起のよい意味を込めて、器や着物、蒔絵、陶磁器など多くの工芸品に取り入れられてきました。

■ 葡萄文様の意味:子孫繁栄と五穀豊穣の象徴
葡萄は一つの房に多くの実をつける植物であることから、「子孫繁栄」「家運隆盛」「五穀豊穣」の象徴とされます。とくに実の多さが「多産」や「豊かさ」の象徴とされ、江戸時代以降の庶民文化の中でも縁起物として好まれるようになりました。
また、つるが四方八方に伸びる様子は、人の縁が広がること、家系や商売の繁栄を意味し、吉祥文様として定着していきました。
■ 葡萄の伝来と文様の歴史
葡萄は、原産地の中東からシルクロードを通じて中国、そして奈良時代の日本へと伝来したとされます。唐の影響を強く受けた「唐草模様」とともに伝わった「葡萄唐草」は、仏教美術の文様として奈良・正倉院の宝物にも見られる格式高い文様です。
その後、室町〜江戸時代には、磁器や蒔絵などにも盛んに取り入れられるようになり、特に京焼や九谷焼、伊万里焼などでは「葡萄唐草」や「葡萄に小禽(ことり)」などの意匠が多く描かれるようになりました。これらは、装飾性が高く、格式と遊び心が共存するデザインとして愛されています。
■ 和食器に描かれる葡萄の美
和食器における葡萄文様は、絵付けの技法や釉薬によってさまざまな表現がなされます。染付では藍の濃淡を生かして伸びやかなつると房を描き、赤絵や金彩では実を瑞々しく彩り、華やかさを演出します。
また、葡萄とともに鳥や昆虫を配したり、秋の草花と合わせることで、季節感と自然美を調和させた意匠もよく見られます。これらは単なる装飾ではなく、器を手にする人に「季節の移ろい」と「暮らしの豊かさ」を静かに語りかけてくれます。
■ 文様に込められた物語:葡萄と仙人の伝説
中国の古典には「葡萄酒を飲んで仙人になった」という伝説があり、葡萄や葡萄酒は「長寿」や「不老不死」を象徴する果実として語られてきました。こうした故事が日本にも伝わり、文様にも「不老長寿」「健康祈願」の意味が込められるようになります。
また、鎌倉時代の仏教絵画には、楽園を表す「極楽浄土」の意匠の中に葡萄棚が描かれており、葡萄がただの果実以上の、霊的な象徴として扱われていたこともうかがえます。
■ 日常に寄り添う吉祥文様として
現代でも葡萄文様は、茶碗、湯呑、小鉢、箸置きなど幅広い和食器に用いられ、日常に華やぎと縁起の良さを添えています。食卓にひとつ、葡萄文様の器を加えるだけで、料理が引き立ち、季節の実りを感じるひとときが生まれます。
● 結びに
葡萄文様は、「実る」ということの尊さ、自然の恵みへの感謝、そして人のつながりの広がりを静かに語りかけてくれる文様です。
暮らしの中にそっと吉祥を添えたい時、葡萄の器を手にとってみてはいかがでしょうか。





