●「麦わら手」とは
「麦わら手」は、器の外側や内側に放射状の線を描いた、縞模様(ストライプ)の一種です。その名のとおり、麦の茎のような素朴な線が印象的で、江戸時代中期以降に日常使いの器として広く親しまれました。主に瀬戸や美濃(特に土岐地方)の窯で焼かれた陶器に多く見られます。
一般的には、アイボリーや黄みがかった素地に、呉須(藍色の顔料)や鉄絵具で、手描きの線が等間隔で施され、その風合いが麦わらの束を連想させることから、この名が付けられました。

鉄筋麦わら手飯碗・海老ヶ瀬保
《飯碗・茶碗・ご飯茶碗・12.2cm》
おおよそ直径12.6 × 高さ6.2cm
●文様の意味と背景
「麦わら手」の文様は、豊穣や安寧、質素な美しさを象徴します。麦は、古くから命をつなぐ穀物として大切にされ、無病息災や家内安全を祈る象徴でもありました。麦わら文様の器は、そうした日々の生活を大切にし、実りを願う祈りが込められたものと言えるでしょう。
また、江戸時代には、民衆の間で「用の美(ようのび)」=日常の中の美しさが重視されるようになり、麦わら手はその代表例のひとつでもありました。
●似た文様「十草(とくさ)」との違い
麦わら手とよく似た印象を持つ文様に、「十草(とくさ)」があります。どちらも縦縞や放射状の線を用いた装飾が特徴で、一見すると混同されがちですが、その成り立ちや表現には明確な違いがあります。
まず、「麦わら手」は、その名のとおり麦の茎のような太めの線が等間隔に描かれ、どこか素朴で温かみのある印象を与える文様です。主に民窯系の器、特に美濃焼や瀬戸焼などで見られ、呉須や鉄絵具によって描かれる素朴な縞模様が、豊穣や実りへの願いを象徴しています。
一方の「十草」は、「とくさ」という薬草(木賊)の葉を模した文様で、細く繊細な線が器の内側や外側に放射状に描かれるのが特徴です。十草は古くから「魔除け」や「長寿」の象徴とされ、清浄な力を持つと信じられてきました。そのため、十草文様にはどこか洗練された気品があり、有田焼や波佐見焼といった磁器にも多く用いられています。
つまり、麦わら手は「農耕や生活の実り」を表す素朴な美しさを、十草は「清らかさや長寿」を願う繊細な美しさをそれぞれ表現しているのです。同じように見える縞模様でも、その背景や意味には、それぞれ異なる物語と価値観が込められています。
●麦わら手の魅力と今
現代においても、「麦わら手」の器は根強い人気があります。手描きならではの揺らぎのある線は、食卓に温かさと落ち着きを添え、家庭の料理に寄り添う器として、多くの人に選ばれています。シンプルながら味わい深いこの文様は、時代や流行にとらわれない普遍的な美を宿しており、日本人の暮らしにしっくりと馴染む存在です。
●おわりに
「麦わら手」は、田畑の風景や暮らしのリズムを映し出すような文様です。使い込むほどに手に馴染み、気取らず、けれど美しい――。そんな器を通じて、実りへの感謝と日々の安らぎをそっと感じてみてはいかがでしょうか。





